平成11年度第3回地域産業情報化研究会視察録(第43回)

Digital Ware Osaka 1999 特別講演
テーマ:「デジタルテクノロジーがビジネスを変える」

講師:ソニー株式会社関西代表・常勤顧問(前代表取締役副社長) 金田嘉行 氏
   

<講演内容>
パラダイムを変える技術革新
   過去、人類にとって経験した産業革命に匹敵するような変革が、現在進んでいる。これは、デジタルテクノロジーによってもたらされている。経済、交流、取引、流通等がデジタルテクノロジーによって大きくビジネスの枠組みを変わろうとしている。

デジタル化による企業活動の変化
   デジタルテクノロジーの進歩によって、企業活動においてますます時間とスピードが最重要事項として位置づけられている。ネットワークが普及し、情報伝達速度と情報流通量の飛躍的向上によって、個々の顧客がより迅速かつ大量の情報を入手することが可能になり、かつ個々の顧客同士のコミュニティ、連携も容易にできる状況にある。 大量の情報は、顧客に均一な商品を提供していたマスマーケットの論理を覆し、顧客の嗜好を強く訴求することになる。そのため企業はより顧客サイドの事業展開が迫られ、これに対応できない場合は、存続が危うくなってきている。一例として従来のパッケージメディア(新聞、CD等)は、将来的には顧客のカスタマイズが容易なオンラインメディアにとって変わることになろう。

企業存続の条件
   日本は1980年代に大変繁栄し、相対的に米国では危機感を募らせていた。当時米国では、経済の再生の研究が行なわれた結果、1990年代にはポートフォリオ分析や、将来性の少ない事業の再構築(リストラクチャリング)を行ない、情報産業など将来性のある新規事業の立上げとその投資など米国企業は大いに変革してきた。日本もこの新しいモデルについて学ばなければならないときである。
  米国では雇用の面で以下のような変革が起きた。

  1968年 1998年
シリコンバレー(情報産業)
112.7万人 →
 334.8万人 
ハリウッド(エンターテイメント)
106.5万人 →
 373.9万人 
ウォール街(金融・証券)
333.7万人 →
 740.7万人 
ヒューストン(石油)
149.2万人 →
 152.2万人 
デトロイト(自動車)
87.4万人 →
 99.0万人 
ピッツバーグ(鉄鋼)
126.1万人 →
 71.2万人 

 これらは、成長している産業の雇用は伸び、成熟している産業は横ばいまたは縮小していることを表している。米国ではこの15年で2100万人の雇用が増加し、その90%が従業員数500人以下の企業であるまたこの6年では1500万人の雇用が増加し、その90%が従業員数50人以下の企業である。

 これは大企業から小企業への雇用需要のシフトであり、これにあわせるように4000万人が一時的に失業したが、6000万人が新らたな職種を得て、結果的に職種転換をすることとなった。

 これらは、米国の大企業が企業の存続を図るために、競争力のある自社のコアコンピタンスを見直し、事業の集中と選択を進めるとともに、必要に応じてアウトソーシングを取り入れ、業務を分業を図っていったリストラに伴うものである。

企業の発展と成長
   現在、企業を存続し発展させていくためには、企業がいかにモチベーションを持ち続けることができるかにかかっている。例えば、未来を創造できることであったり、徹底的に顧客の視点にたった事業を展開したりすることである。

 新しいビジネスの仕組みを考えてみると顧客に新しい価値を提案し、増殖させる場合がある、ソニーで言えばデータを融通させる仕組みである「i-link」や「メモリースティック」がこれにあたる。また、ネットワークの普及に伴う情報の洪水の中から、顧客に有益な情報をセレクトするようなSOHO的なビジネスも考えられよう。価格競争に陥りやすく、粗利率の低くなりがちなハード機器製造から、利益率の高いソフトウェアや顧客マーケティングビジネスを創造するような事も考えられる。ソニーにおいても次世代ゲーム機「PLAY STATION 2」ではゲーム機としての性能を極めながらも、ネットワークへの対応、データ放送の取り込みなどに力を入れ、テレビや情報機器を融合した新しいデジタルビジネスのコアツールとして位置づけたビジネス展開を考えている。

 以上のようにビジネスの仕組みを変えていくとともに、考えていかねばならないのが、環境問題や安全性、ハード機器とソフトウェアコンテンツなどとの融合ビジネスの展開である。これからは競争力のある企業がその得意分野を互いに分業し、共同でビジネスを展開することとなる。この際重要となるのは提携や提案など、素早い経営判断であろう。そのためにも、権限の委譲を進め、組織のスリム化が必要である。ソニーの場合も、カンパニー制と執行役員制度を導入し、各事業の独立性と、スリム化を図っている。組織のスリム化とともに、組織の方向性などの提示といった経営の透明性の確保も重要である。

 これらを実現していくためには、人材が大変重要である。リーダーとなるべき人材には困難に立ち向かうルールブレーカーの要素が不可欠であり、深い洞察力と先見性、そして判断力などが要求されるとともに、個々の社員の能力を自由に発揮させることのできる環境整備が重要である。

21世紀をめざして
   今後の日本においても企業の存続、経済の活性化のためには、従来避けて通れた、痛みを伴う構造改革を避けるわけにはいかない。情報産業の発達とともに産業構造の変革が全産業に波及している。これからは国際競争力を確保するためのユニークな事業展開(コアコンピタンス)の確立が求められるとともに、お互いが提携していくことがビジネススタイルとなってくる。そのためには対応力、イノベーションの維持に優れた小組識的の活力が企業として必要とされよう。

 また今まで築いてきた、物理的な生産技術や開発技術と新しいデジタルテクノロジーを日本的なユニークさで融合させていく事が、国際社会に通用する上で大切ではなかろうか?

Digital Ware Osaka 1999 特別講演
テーマ:「21世紀ディジタルネットワーキングのインパクト」

講師:東京大学 国際・産学共同研究センター教授 安田 浩 氏

<講演内容>
デジタルネットワークのための技術
   インターネットは普及してきているが、放送のように1対多のデータの流通と違い、1対1のデータ通信であり、普及にしたがってデータ量も増大する。画像、音声などのデータはこれを爆発的に増大させ、インターネット通信網の容量も増大させる必要がある。現在、毎秒ギガビット単位(Gbps)からテラビット(Tbps)単位に増大させる技術の研究が日米などで進み、この数年でクリアされる見込みである。現在のインターネット技術は、オープン性やデータ伝送の正確さという点では特徴を持っていたが、データの即時到達といった点や安全性といった面では、問題があった。これからの次世代インターネットでは、これを解決するために通信するデータに優先度を設定して、伝送帯域保証を行なう高価高品質のサービスと保証しない廉価なサービスを設定する方向である。ただ、基幹の通信網の技術は解決される方向であるが、膨大な末端のアクセス回線の性能向上が早急な問題になってくる。

急増するデータ発信
   端末機器の普及はデータ発信機器を急増させることとなっている。例えば、携帯電話、PHSである。将来ウェアラブルコンピュータが普及し、自動車各車に機器が搭載されれば、人間が活動場所における様々な情報が各機器によって収集され、発信されることになる。2005年時点で9億4000万台のデータ発信機器が日本国内に存在できる潜在力がある。例えば、ワイパーの動作データを収集すれば、リアルタイムの降雨分布データになる。普及するであろうこれらのデータ発信機器を利用したデータ収集のインフラ整備はこれからの課題である。

MPEG4とMPEG7
   MPEGはテレビ等の動画をデータ処理するために定められている規格である。MPEG1→ビデオCD、MPEG2→デジタル放送、MPEG3→高品質テレビといったものに活用されている。MPEG4は遅い通信回線で使用できるものを前提に、オブジェクト符号化という考えを取り入れている。例えば人物、冷蔵庫、車といった物体に対して符号化しているため、動画中の物体に対してリンクを貼り付けることも可能になる。このリンク機能によって新しいCMの提案も可能としている。また、一般にテキストデータと違って検索が困難な、画像、動画、音声といったマルチメディアデータに関して、検索を行なうためのMPEG7といった規格も現在提案中である。MPEG7ではXMLを使ってマルチメディアデータ中の検索データを記述する方向である。これによって「青い背景画面の画像」「笑っている場面」といった検索・抽出も可能になってくる。

コンテンツ保護とコンテンツID
   ネットワーク上に流通するコンテンツを増大させるためには、コンテンツの制作者の著作権を保護し、不正使用、流通をさせない仕組みが必要である。制作したコンテンツに公正な三者機関が管理するIDを設定し、一部使用や二次加工といったものに対しても、IDによる著作権保護を行なう方向となっている。

情報家電へのアプローチ
   ネットワークの家庭への普及で、その情報端末となる情報家電機器が注目されている。携帯電話やテレビ・冷蔵庫、パソコン、ゲーム機といった様々な視点から、家庭用情報端末機器の提案がされている。

安全性と暗号化
   インターネット上のデータ流通の安全性については、現在行われている暗号(公開暗号鍵と秘密暗号鍵の併用)技術と認証局のシステムによって一応技術的課題を克服している。ただし認証に際しての利便性の改善については、生体情報(指紋照合など)の検出・活用により余地がある。

ネットワーク上の放送会議システムと観客つき
   ゲームシステムリアルの会議では相手の顔を伺い、雰囲気を察知するといった行動が日常的に行われる。一方、ネットワーク上では互いの顔やその様子といったものが伝達できない。そこで、互いの表情、様子などを、トランザクションに伝送する放送会議システムが考えられている。これを使うと、ミーティングの場の雰囲気などを少しでも共有することが可能となるが、ネットワーク上に流れるデータ量は爆発的に増大するのが、問題である。これを利用すると、観客つきゲームコミュニティを形成することが可能で、新しいネットワークコンテンツの一つとなることができる。

ネットワークの分化
   社会生活において、ネットワークと情報は切り離せなくなるが、常に大容量のデータを利用することは、人間の能力的に処理ができず、ネットワーク資源の有効利用といった面でも不経済である。したがって、人間が常に知りたいと考えている情報と、それ以外の情報に分け、常に知りたい情報を「キャッチコピー」の小容量データとして常時情報端末に表示、伝達しておくという利用形態が考えられる。詳細情報は大容量データである場合が多く、必要に応じて利用するという考え方である。常時知りたい小容量の情報は無線系の媒体によって常時接続され、大容量は光ファイバやCATVといった有線・高速系の媒体によって提供されるといった、アクセス媒体の融合が進むと思われる。

ネットワーク社会の確立
   わが国はまだ米国に比べて、多数の点で後れをとっている。今後、電子商取引は急速に普及するであろうが、日本の一般家庭における普及は現時点では大変遅れている。これからは、必要な技術面の課題の克服を進めながら、ネットワーク上での教育娯楽といったコンテンツ面を充実が不可欠である。


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