平成14年度第3回地域産業情報化研究会会議録(第55回)

<講演>

テーマ: 「ここまできたユビキタス情報社会のフロント」
     
講 師:
株式会社日立製作所 情報機器事業部 企画本部 新事業開発センター
センター長 野村 訓弘 氏


(公演内容)
ユビキタスとは
   "ユビキタス(ubiquitous)"とはラテン語の言葉で、直訳すると"あらゆるところに存在するという意味である。これに我々なりの解釈を加えるとそれは、「いつでも、どこでも、誰でも」ネットワークを手にできるといったところであろう。「いつでも、どこでも」ネットワークとつながっている状態は高速通信の開発によって実現した。端末のCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)は今の向上を続けている。「誰でも」については、パソコンが非常に使いやすくなったことで実現した。昔使われていたUNIXなどは、専門用語を知らなければ扱うことができなかったが、現在ではWINDOWSなど専門家でなくても簡単に使えるものが多数登場している。
 "ユビキタス"は最近になってよく使われるようになった言葉だが、現在でもユビキタスというべき状態がないわけではない。たとえば時計がその良い例である。多くの人の腕には腕時計が巻かれており、駅のホームや喫茶店でも見上げれば時計がある。リビングのビデオやテレビ、家電製品にも時計がついており、いつでも、どこででも時刻情報が手に入る。また、最近では乗車券なども駅や交通会社まで足を運ばず、携帯電話から簡単に予約できるようになっている。これらはまさに"ユビキタス"と言えよう。
 今後はますますユビキタス化が進んでいくだろう。ホテルのロビーや客室が自分のオフィスと同等の環境になり、自治体での各種申請がどこからでもできるようになる、といったことが現実になるだろう。

ユビキタス環境のカテゴリー
 

 ネットワークの環境は大きく"私的空間"と"公共空間"の二つに分かれる。私的空間とは、家やホテルの客室といった場所のことで、自分だけの情報をやり取りする場である。これに対して公共空間とは、空港、駅、コンコースといったオープンなスペースのことで、インターネットにアクセスするなどのオープンな情報のやりとりを行う場である。これに加えてユビキタス環境では"セミ公共空間"が登場する。ホテルのロビーや喫茶店でありながら、会社にアクセスして自分だけのメールや情報を処理するといった、「公共の場における私的な」空間の登場である。たとえばユビキタス社会のカフェとは、「オフィスの中に従業員用のカフェがある」状態ではなく、「喫茶店にいながらオフィスにいるのと同様に仕事ができる」という状態になるのだ。もちろん仕事をせずに、喫茶店で休憩がてら気軽に情報交換することも可能だ。


Fast ITからSlow ITへ
 

 これまでのIT業界はとにかくスピードが速かった。あっと言う間にモデルチェンジが行われ、どんどん新しいものが市場に登場した。そうすることで、従来の製品が古いことをアピールし、より新しい・高度な製品への買い換えを消費者に促すというビジネススタイルであった。しかし、あまりに速いモデルチェンジのスピードに市場はついていくことができなかった。このことはIT不況の一因ともなっている。そこで我々が提案するのがSlow ITである。何も全てのものがFast ITでなくてもよいのではないか、消費者の意見をじっくり聞いて、長く付き合って市場を決定していってもよいではないか、という考え方だ。一般に、ある製品が市場で一定の評価を得るには長い時間がかかる。ポカリスエットは市場に認められるまでに7年かかったといわれるのだ。そういった、永く店頭に並ぶような商品がITにもあるはずだと考えている。


多拠点サービスの必要性
   ユビキタス環境は日立一社では実現できない。あちこちにいくつもの拠点を持った状態でのサービス展開が必要になる。まず病院や地域の商店街などのサービスプロバイダ(サービス提供者)が「どのようなサービスを提供したいのか」を考える。次に、それらを実現するためのいっさいがっさいをシステムインテグレータ(調整・統合役)が整える。そして、通信を担当するキャリアなどがインフラ整備を行う。これら多主体の協業・協力なしには、ユビキタス環境はとても実現できない。

ここまできたユビキタス環境
  日立ではeプロジェクトというビジネスモバイル活動を展開している。ICカードやモバイルパソコンを利用して、従業員のホームサービス、メールの社外での受信、社外にいる社員も参加した緊急会議などのサービス提供を目指している。実際に、重要度の高いものを除いて社内情報やメールを出張先などの社外で、社内と同じような環境で見ることができるサービスを実験的に行ってみた。社外からサービスプロバイダに接続して社内にアクセスできるというものである。このときに問題となるのがセキュリティである。そこで我々は次のような方法で万全のセキュリティを組んだ。まずセキュリティの第一関門として、パソコン本体にアドレスをつけ間違いなく登録されたパソコンであることを確認する。つぎに従業員用のICカードによって個人認証を行う。さらにICカードに対してもパスワードを付与した。アクセスにはこれだけの手順を踏まなくてはならない。また、社内の情報にアクセスする際はその都度ログインパスワードの入力が要求される。パスワードに関してもなるべくわかりにくいパスワードをつけるよう指導したほか、外部から見られたくない重要なメールなどは個別にパスワードをつけるよう指導するなど、セキュリティにはさまざまな工夫を凝らした。

ユビキタスで提供されるサービス
   ではユビキタス社会では実際にどんなサービスが提供されるのだろうか。すでに実践されているサービスとして次のようなものがある。

(1) ホテルでのサービス
-  仙台にあるホテルではフロントロビーで地域情報の検索が可能だ。客室にはテレビ一体型のパソコンが設置されており、インターネットを利用できる。もちろん自分が持ち込んだパソコンを接続することも可能だ。このホテルではチェックアウトの際にその人がどんな情報にアクセスしたかを全て印刷するサービスを行っている。

(2) 気象情報サービス
-  たとえば農家では雨が降ると仕事ができない。このため農地で作業をしているときにリアルタイムな天気予報が欲しいというニーズがあった。そこで、10分おきにリアルタイムな天気予報を有線で農家に送り、その農家から離れた農地に無線LANを使って情報を転送するサービスがある。このサービスでは農家から農地へと一方的に情報を送るだけでなく、農地の方から「これから帰るよ」といった情報発信が可能になっている。

(3) 災害情報ネットワーク
-  災害救助の現場でもこれと似たようなネットワークが活用されている。災害現場と防災センターの間では衛星を使った情報交換が行われる場合があるが、そのための装置を積んだ車が現場まで入れないことがある。その場合この無線LANを人間が携帯し、車と現場の間の情報交換を行うことで車が入れない現場でもリアルタイムで防災センターから情報を入手したり防災センターに情報を発信したりできるようになる。

 このようにユビキタスが生活にどんどん浸透してくる。ユビキタスで提供されるサービスの重要なポイントはシームレス(つなぎ目がないということ)さだ。「銀行なら銀行だけ、病院なら病院だけのシステム」で完結せず、「銀行で病院の、病院で銀行のサービスが受けられる」という、1つのところでどこのサービスも受けられるということである。

 最初にも述べたが、ユビキタスは「いつでもどこでも誰でも」ネットワークに接続できる環境をもてることだが、この「誰でも」には2つの意味があると思う。その2つとは、高度なパソコンでも簡単に使えるようになる状態のことと、われわれ健常者だけでなく障害のある人でも簡単に情報発信ができるような状態のことだ。手足が不自由な人、車椅子の人にとっても簡単に情報発信できるような機器を情報技術で作ることが必要だと思う。

ATMから広がるユビキタス
   町かどにあるアクセスポイントで、いろいろなことができるようにしようという考え方がある。タウンアクセスポイント(TAP)である。コンセプトは、TAPを使った異業種連携サービスのワンストップ提供である。ワンストップサービスとは、先にもあげた「1箇所で他のいろいろなサービスが受けられるということである。公共空間や自分の近くの空間に設置された拠点において、銀行や自治体のサービスが受けられるといったものだ。そのためには
(1) ユビキタスネットワーク…いろいろな人がアクセス可能な、安全なネットワークを実現
(2) ユニバーサルオペレーション…老人から子供まで使いやすいシステムの二つが必要になる。
の二つが必要になる。
 これまで情報端末はサービス提供をする側が独自の情報システムを構築していたが、今後はそれらを統合するようなネットワークが構築されていくだろう。各端末同士が接続され、一箇所からそこにアクセスすれば、そこにつながっているいろいろなサービスが受けられるようになろう。加えて各端末と携帯電話などのモバイル端末がワイヤレスで連携できるシステムが実現する。このようなマルチにつながる環境が実現すれば、サービスの連携は非常にやりやすくなるうえ、新しいサービスも登場するだろう。たとえば現在はまだ実現していないが、ITビルにおける会議システムなどは今後完備されていくだろう。PDAを使って、出先の人間と社内の人間がリアルタイムで会議をするといったシステムである。ユビキタス社会ではこうした場所の壁(あるいは言葉の壁)がいっさい取り払われていくのではないか。
TAPによって、
1. 情報の送受信
2. 上記1.のみならず、リアルサービスの提供(チケット・現金・カードなどのソース)
3. 資源の共有による低コスト化(一つの装置で一つのサービスではなく、一つの端末で複数のサービスを受けられる)
が実現される。

 日立は、安心で快適なユビキタス社会を提供しよう努力している。今の社会が変化する際、変化をもたらすのは日立でありたいと考えている。


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