平成14年度第6回地域産業情報化研究会会議録(第58回)

<講演>

テーマ: 「松下電器の考えるユビキタス社会」
     
講 師:
松下電器産業株式会社 eネット事業本部インターネット推進室
CTO 吉田 純 氏


(公演内容)
ネットワークの潮流
   最初にインターネット関連分野の歴史と、その現状についてお話ししたい。この業界では、かなり古い年を除いて考えると、「3」「8」のつく年に大きな変化が起こると言われている。最初の「8」がつく年である1988年にはWIDEインターネットが日本でスタートし、日本のインターネットが世界のインターネットと接続されることで、日本が世界のネットワークに仲間入りした年であった。
 これを立ち上げたのが慶應義塾大学の村井純氏である。
次の大きな変化は1993年にMOSAIC(WWW)が日本に上陸したことである。これによってネットスケープやインターネットエクスプローラーといった、マルチメディアコンテンツを閲覧するためのツール「ブラウザ」が提供され、それまで電子メールの利用に限られがちだったインターネットに大きな変化をもたらした。また、この年にはIIJが創業し、それまで学術分野でしか利用できなかったインターネットの商業利用が可能になり、インターネットの利用範囲は大きく拡大した。
 そして1998年になると楽天市場がスタートし、ネットワーク上でのお金のやりとり、すなわちeコマース的な利用がはじまった。そして、次の「3」のつく年である2003年に登場するだろうと言われているのが「ネット家電」である。インターネットに接続された家電製品が登場するというわけだ。
 また同時にIPv6などの新しいネットワーク環境も整備され、より巨大なネットワーク環境が実現するであろう。松下電器としてもこういった流れに沿った技術開発、製品開発を目指しているところである。
 こうした流れのなか、情報化を言い表す言葉もマルチメディア、デジタルネットワークインターネット、ブロードバンド、ユビキタスとつぎつぎに変化し、現在では「ユビキタス」という言葉が盛んに用いられている。「ユビキタス」という言葉、あるいは考え方は意外と古くから存在していたのだが、それを実感させる商品・サービスが登場せず、長らく日の目を見なかった。
 近年モバイル環境を含めた技術が追いついたことで、ようやく注目されるようになった言葉である。
 2000年にはIT国家戦略が打ち出され、国をあげてブロードバンド化に取り組もうという動きが出てきているし、「2005年までに4千万世帯」といった具体的な目標も掲げられている。こうした活発な動きの効果がじわじわと出てくることによって、2003年末ころにはブロードバンドがかなり浸透し1千万世帯を超えてくるだろう。
 そうなってくると、これと消費が結びつき、いろいろなものが普及してくるのではなかろうか。ブロードバンドでは2003年頃から光ファイバーが大きな伸びを見せると考えられる。
 ところで日本のIT活用度は世界の中でどのくらいの位置にあるのだろうか。2月24日の日経新聞にあった「IT活用度」のデータによると、フィンランドが1位、米国が2位となっていて北欧諸国が上位にある。ところが日本はというと、先進国の中ではかなり低い20位となっている。
 日経新聞の記事によると、日本では公共部門でのIT活用が立ち遅れているのがその理由らしい。日本ではインフラとしてのネットワークはある程度整っているのだが、それをどう利用していくかというところでまだまだ立ち遅れているように感じる。

これからのサービス観
   このように最近では、インターネット、デジタル放送、ケーブルといったネットワーク環境やコンテンツなどの個別のサービスは整ってきている。ではこういったネットワークを活用して、どのようなサービスを提供していけばよいかを紹介していきたい。これからのサービスは次のようなレイヤー(階層)ごとに分類して提供していく必要があると考えている。その一つ目は、携帯電話や無線といった消費者に一番近いネットワーク環境であるパーソナルレイヤーだ。
 私はこれを「ラスト1m」と呼んでいるが、個人を取り巻く環境にどのようなサービスを提供していくかを考える必要がある領域だ。次に考えるべきレイヤーはホームレイヤーである。これは一般に「ラスト1mile」と言われる領域である。ネット家電などはまさにこの部分に含まれるサービスであろう。さらに広いものとして商店街や学校などを含んだコミュニティーレイヤー、電子自治体や電子政府といった社会サービスの領域であるソーシャルレイヤーが考えられる。
 ところで、実際にネットワークサービスをビジネスとして展開していく際には、サービスにある程度の階層構造が必要になってくる。つまり、サービスそれ自体のほかに、課金や顧客管理などのサービスインフラ、それらを運用するためのバックボーンインフラ、そしてこれらを利用するためのアクセスインフラ、さらには端末としてのインターネット商品などが縦方向に整っていることが重要である。このなかでも松下電器が力を入れている得意分野はネット家電などの端末(インターネット商品)分野や、サービスインフラなどのプラットホーム的な分野である。

ホームレイヤーでのサービス
   それでは、松下電器として具体的にどのようなサービス提供を考えているかをこれから紹介したい。
 まずはホームレイヤーについてだが、代表的なものとしてネット家電、IP電話が挙げられよう。マーケティング調査会社の調査によると、多くの人がネット家電に関心があると答えている。
 アンケートの結果からネット家電のニーズを見ると、エアコン、ビデオ、オーディオ機器などの遠隔操作したい機器や、ドアロックや外から家の様子がわかるなどのホームセキュリティ関連のサービスや省エネにつながるサービスにニーズが高い。また、炊飯器や冷蔵庫などの機器も女性を中心にニーズが高い。これらのサービスは数百円程度なら有料サービスとして受容できるようだ。
 ネット家電製品を提供していく際に重要になるのが、セキュリティ(安全性)とプラグアンドプレイ(設定不要)の二点である。ネット家電は、常時インターネットと接続状態にあることが売り物だが、それゆえに外部から他人に操作されない、外部へ情報が漏れないといったしっかりとしたセキュリティが必要になる。
 また、現在の情報通信機器はいろいろと面倒な設定が必要であるが、一般の人にはこれがなかなか難しい。ネット家電が広く普及するためには、煩雑な設定作業が不要でなくてはならない。ネット家電だけでなくIP電話についてもサービスが始まっている。IP電話はIP(Internet Protocol)を利用して音声情報をやりとりするものであるが、これによって同系列IP電話間では無料、一般の加入電話への電話料金も若干安くなる。現在はYahoo!をはじめとして電話各社はサービスを開始、あるいは検討をはじめている。

コミュニティーレイヤーでのサービス
   もう少し大きな範囲でのサービス、コミュニティーレイヤーについて紹介する。
 松下電器で実際に提供しているサービスに「おたっくすホームページサービス」がある。ある商店街のホームページ会員である商店が、安売りや入荷などの最新情報をファックスで送ると、商店街のホームページが自動的に更新されるというサービスである。
 また、インターネットユーザーが電子メールを使って問い合わせをすると、その内容がファックスで商店に届くというサービスも同時に行っている。これによってパソコン担当者のいない商店でも、簡単にホームページを更新したり消費者からの問い合わせに対応したりできるようになる。
 詳しくはこのサービスを利用している「みのしま商店街」のホームページ(URL:http://www.minochan.com/)を参照されたい。この他にも松下電器では、ネットワーク上でのショッピングモールのバックヤード構築も行っており、その際必要になる顧客管理や在庫管理、決済、カスタマサポートといった裏方の仕組みを用意している。
 二つ目に紹介するのは動画配信を利用した各種サービスである。ネットワークを利用した動画配信の利点として、衛星放送やビデオテープによる情報伝達と違って、高品質であること、即時性があること、コストダウンが可能であることなどがある。松下電器ではこの動画配信を実際に行うために、インフラ系での準備はもちろんのこと、配信するサービスの中身(コンテンツ系)や著作権管理のためのシステムも用意している。
 動画配信サービスの具体例として、eラーニング、中継、定点観測などがある。eラーニングは予備校、大学などに需要がある。学内での無線による各種情報の入手、提出や現役学生による遠隔教育サービス、卒業生への学校情報や生涯教育の提供などが可能になる。ただeラーニングの場合は、どの人がどのコンテンツをどこまで見たのか、ということの管理(Learning Management System)が必要になってくる。
 中継については議会中継をネットワークで配信し、住民に情報を公開することなどが行われている。議場にカメラクルーを派遣したり定点カメラを設置したりして、あるいはストリーミング放送で議会をライブ中継する。定点観測については観光地、イベント会場の様子を定点で撮影、動画として配信するサービスだ。また、学校、工場現場、家庭内やペットの様子を定点で監視した映像を動画配信するといったサービスもこれに含まれよう。この場合は外部にこれらの情報が漏れないようにするため、パスワード認証などのセキュリティに注意を払う必要がある。

今後の注目課題
   最後に、今後注目されると思われるテーマや技術について紹介する。
 まず一つ目が携帯インターネットサービスである。これはホットスポットが進化したものと考えてもらえると良い。ホットスポットは無線LANを使用したネットワークサービスであるが、1つの基地局の範囲内でしか利用できず、そこから出るとネット接続が切れてしまう。
 これに対し携帯インターネットとは、まさに携帯電話のように移動しながらネットワークを利用できるというものだ。これによって、パソコンが携帯電話のように使用できるようになるので、非常に便利になる。松下電器としては、戦略的にも技術的にも扱いやすい分野だ。しかし、公衆の場で情報をやり取りするため、第三者への情報の漏洩を防ぐための強力なセキュリティが必要になる。
 二つ目にIPv6がある。現在のインターネットに利用されているのはIPv4で、これではIPアドレスが不足する(40億個しか確保できない)。エアコンやテレビなどをインターネットに接続し操作するためには、それらの製品一つ一つにIPアドレスを付与する必要が出てくるため、ネット家電が普及するためにはIPv6の導入が不可欠となる。この分野は技術的には確立されているが、現行のIPv4との併用が必要になるため、それが可能なシステムにする必要がある。
 さらに、現在非常に注目されているのがRFIDである。これは非常に小さなIDで、商品に貼り付けておくと、無線で固体自動認識が可能になり、さまざまな物体、資材、物流資源の管理に利用できる。無線タグと無線リーダがセットで用いられる。RFIDを利用した際のメリットとして、リサイクルの際にその部品の素性がわかるとリサイクルしやすい、どの部品が誰の元にあるのかがわかり、カスタマサポートが行いやすい、商品につけておけば料金計算が一瞬でできる、などが考えられる。
 現在ではすでに、これを規格化していこうという動きが出てきている。規格化の大きな流れとしてAUTO−IDとユビキタスIDの2つがある。AUTO−IDは必要なことはIDに書き込まず、情報が必要なときにネットワークに取りに行くというものである。
 一方のユビキタスIDはなるべくIDに情報を書き込んでおくというものである。これらはどちらか一方に完全に一本化されるというのではなく、必要に応じて使い分けられていくだろう。
 最後に、ネットワーク社会の今後の展開について述べたい。現在はユビキタスという言葉を盛んに耳にするが、その次に登場するものとして「コンシェルジェ」が挙げられている。
 現在のeマーケットプレイスはB2Cと言われ、消費者個人を区別せず集団として扱っている。しかし、今後はネットワークシステム自身が知恵を持ち、個々を区別してサービスを提供するB2me、me2meへと代わっていくことが予想される。これがコンシェルジェの考え方で、消費者を区別するプロファイリング技術や人工知能技術が必要になってくるだろう。
 そういった社会ではコンテンツの流れが大きく変わっていくと思われる。現在のようにコンテンツを持っている人間が端末に向けてそれを配布するという「上(PCなど)から下(端末)」への流れではなく、たとえばネット家電のような「下(端末)から上(アプリなど)」や「横同士(端末同士)」のやりとりが行われるようになるだろう。こうした社会ではセキュリティやコンテンツの考え方を大きく変えていく必要があるだろう。

松下電器産業 技術館視察


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