平成14年度第5回地域産業情報化研究会会議録(第57回)

<講演>

テーマ: 「ウェアラブルとユビキタスの統合に向けて」
     
講 師:
大阪大学大学院情報科学研究
助教授 塚本 昌彦 先生


(公演内容)
講演概要
 
  • 今さまざまな新しい切り口でユビキタスビジネスが始まりつつある。
  • なかなかはやらなかったウェアラブルコンピューティングも近言うちにブレイクする。
  • これらを口火にして、電気、通信、コンピュータ業界のみならず、全業種・全産業を巻き込む新たな産業革命がもたらされる。
  • より人々の生活を豊かにするエンターテインメント・アミューズメント産業へとすすむ産業統合の方向性を示す。

現状:Mobile Computing
 

モバイルコンピューティングについては、次のようなことが言える。

  • コンピュータなどの機器を持ち歩いて利用すること。
  • より広くいえば「ユーザが移動しながらコンピュータを利用すること」[塚本99]。
  • 機器は持ち歩いても持ち歩かなくてもよい。
  • いつでもどこでもコンピューティング。
  • モバイルコンピューティングはここ10年の間に着実に浸透した。

しかし、モバイルコンピューティングの潮流の中でなかなか、浸透しないものもある。

  • 第3世代(3G)携帯
    通話エリア、電池の寿命などに問題があり、なかなか浸透していかない。欧米の企業も同様の状況で、世界的に見て、総崩れする危険もある。
  • IPv6
    CIDRやNATなどのローカルIP技術が開発され、IPv6への移行が遅れている。
  • Bluetooth
    標準化に時間を掛け過ぎ、市場への投入が遅れた。
  • ホットスポット
    ホットスポットを事業として展開していたモバイルインターネットサービス株式会社が事業中止を発表するなど、市場ができていかない。1)2。4GHzの帯域は、誰でも使用できるため、電波の干渉の問題がある。2)誰でもアクセスできるサービスを行うことによって、基地局への成りすましなどのセキュリティの問題を解決できない。などの技術的課題も存在し、あまり浸透していない。
  • 情報家電
    メーカー側の思いつきで開発されていることが多く、ユーザのニーズを反映させていない。ビデオデッキが電子レンジと繋がったとしても、それを有用だと考えるユーザは少ないだろう。
  • ウェアラブルコンピューティング
    ヘッドマウンドディスプレイ(HMD)などは、アメリカでは軍が開発を行っているが、民生用にするためには、PL法(製造物責任法)の制定などの規制により目への影響等の安全性が問われ、発売が困難になっている。携帯機器のプラットフォーム的役割を担うPDAの市場も上手く出来上がっておらず、市場規模としては1000万台にもなっていない。多くのユーザは、デジカメ、ウォークマン等の携帯機器を結局複数持ち歩くしかないような現状である。
  • その他
    例えば、カーナビもネットワーク接続のインターフェースの作り方があまりよくない。これは、国土交通省の規制の影響が大きい。

これらの失敗の主たる原因を考えると、次のようなことが言える。

  • シーズオリエンティッド
  • 話題先行
  • 複雑な利害関係
  • 標準化の遅れ
  • 官の主導。商売を始める「前」にみんなが飛びついてしまうとだめ!

逆に上手くいったものを上げると、携帯電話、iモード、デジカメ、家庭用ゲーム機、インターネット、ノートパソコン、USBなどがある。その理由としては、

  • 話題が先行せず多くの人にとって予想外の成長を遂げる。
  • ニーズオリエンティッドで個別ビジネスから立ち上がる。
  • その後のビジネス競争の中で自然に淘汰される。ファーストステップがビジネスとして成り立つ!

最近の注目株としては、「無線タグ」およびそれを利用した「ユビキタス情報サービス」が上げられる。キーワードはユビキタスである。


1st Step:Ubiquitous Network
   「ユビキタス(ubiquitous)」とは、 「同時にいたる所に存在する。遍在する。遍在的な。(旺文社 Comprehensive)」と言う意味である。「ユビキタスネットワーク」とは、
  • いたるところにネットワークがある(遍在)。
  • ユーザはいつでもどこでもそれを利用できる。
  • 状態を言う。「ユビキタスコンピューティング」とは若干違う。「どこにでもある」のが「ネットワーク」か「コンピューティング」かの違いである。むしろ、携帯電話、ホットスポット等の「モバイルコンピューティング」と意味としては似ている。
     中央省庁、地方自治体、企業を問わず、「ユビキタス」と言うキーワードが様々なところで頻繁に使用されるようになった。さらに、「ユビキタス」を冠する多数の図書が出版されるなど、まさにブームの様相を呈している。政府のe-Japan重点計画2002でも、「すべての機器が端末化する遍在的なネットワークへの進化を目指す」など、ユビキタスネットワークの推進を謳っている。様々なビジネスが草の根的に立ち上がって来ており、特に、モバイルの自然な延長として無線タグや携帯電話を使ったユビキタス情報サービスが注目を集めている。その例としては、次のようなものが揚げられる。
    • NTTドコモと日本コカコーラのc-mode
      -携帯電話でコカコーラの自動販売機からジュースを購入。
      -Cチケットと呼ばれる2次元バーコードを携帯の画面に表示し、自動販売機に備えられたカメラでそれを映して認証。
      -第一興商もカラオケの割引券や着信メロディの販売に利用。
    • オムロン、ぴあのGoopas
      -定期券で自動改札を通ると、そこを通ったと言う情報をもとに近隣情報を携帯メールで配信する。
    • imaHima, incのimaHimaサービス
      -携帯電話のインターネットサービスで、「いまどこでなにをしているか」を入力し、近くにいる仲間を探す。
      -モバイルコミュニティーとインスタントメッセージの支援が主な機能。
    • ソシエテアペックスの「守っTEL」
      -泥棒が侵入するとセンサで感知し、携帯電話に異常を通報する。
      -自宅内部の音を携帯電話で聞き、声やサイレンで泥棒を威嚇すると同時に警察に通報。(画像も残すもの、防災機器として使えるものもある。)
    • テムザックの大型ロボット「番竜」
    • 象印マホービンの「みまもりほっとライン」
      -電気ポットの使用状況をインターネットや携帯電話で確認する。
    • KDDIのGPS携帯
      -地理情報のデータベースと組み合わせて携帯電話で「最寄のラーメン屋」を調べるなど。
    • GPS応用
      -GPSを利用した自動車の自動走行。
      -GPSによる車椅子やロボット走行のサポート。
      -GPSで廃棄物の運搬経路をリアルタイムに追跡。
      -畑の状態を緻密に把握管理し、農作物の生産管理をする。
      これらの、ユビキタス情報サービスは大きく分けると次のように分類される。
    • 位置情報サービス
      -位置表示サービス・物体検索サービスなど
      -位置情報を直接利用するサービス
    • ロケーションアウェアサービス
      -スマートホン、Nearestサービス、This-roomボタンなど
      -近隣情報や状況依存のコンテンツなど
    • ユーザ・物体識別サービス
      -ユーザ認証、物体管理、課金など
      -誘導(ナビゲーション)や交通管理など
    • ユーザ追跡サービス
      -カメラ追跡、Teleporting
      -Follow-me、 follow-itサービスとも呼ばれる。

     モバイルの自然な延長としてこれから2010年までの間ユビキタスネットワークが進展する。


    2st Step:Wearable Computing
     

     ウェアラブルコンピューティングとは、モバイルコンピューティングのようにコンピュータを「持って」移動するのではなく、コンピュータ自体を服のように着てしまうことを指す。ポイントは、

    • 常時ON:いつでもどこでも使える。
    • 生活密着:ユーザの日常生活をサポート
    • ハンズフリー:両手で別のことをしながら利用できる。

    であり、用途としては、

    • 軍事用:陸軍、空軍の情報収集・交換
    • 業務用:営業マンの顧客周り、消防・警察、ファーストフード・コンビニ、警備・介護
    • 民生用:情報提示、記憶補助・情報記録、コミュニケーション、暇つぶし(エンターテインメント系)、教育

    等が揚げられる。



    今まで、なかなか流行らなかったが、

    • デジカメ、DVC、携帯ゲーム機、シリコンオーディオ等、モバイルIT商品の成熟
    • 携帯インターネット、3G携帯、常時接続、ロケーションサービス等、通信インフラの充実
    • ジャイロセンサ、磁気センサ、GPS等、センサデバイスの劇的な変化
    • ウェアラブル、ユビキタス等の国策・企業戦略

    などにより、5年以内にブレイクするものと考えている。その根拠としては、1)現在の携帯電話では、常に情報を受けるユビキタス情報サービスのビューワとしては、不便である。2)ウェアラブルコンピュータ時代を象徴するものとして、メディアの注目を集めるポテンシャルを秘めている。ことが揚げられる。発売当初は大変奇妙なものであった携帯電話やウォークマンなども、今となっては当たり前のものとなった。ウェアラブルコンピュータに関しても同じことが言える。ブレイクへのアプローチとしては、携帯電話やMP3のビューワなど簡単なアプリケーションから始め、システムとしては低性能なものでいいので、装着性やファッション性に重点を置くべきである。


    3st Step:Ubiquitous Computing
     

     「なくしたものが見つからない。」、「汚れ・故障・賞味期限切れに気づかない。」等、高度情報化社会と言う「すごい」時代にこんなに「簡単な」ことが問題になる。ごく身近なところでのごく簡単な「コンピューティング」が実現できていないのである。これらを解決するのがユビキタスコンピューティングであり、「コンピュータはいろいろなものや場所、人などに埋め込まれていて、それらが有機的に相互作用することによってさまざまな機能を果たす。」状態のことを言う。アプローチとしては、以下のようなものが揚げられる。

    • ユビキタス情報発信器
      -とにかく作ってさまざまな場所やものに埋める。
      -IDやセンサデータ、そのほかの情報などを発信する。
      -ウェアラブルコンピュータで受信できるようにする。
    • ユビキタスセンシング
      -センサをアスファルトやコンクリートに混ぜて道路や壁に埋め込み非接触で読み取る。
      -地震予知や人の動きを検出する。
    • なくしたもの検索サービス
      -財布、鍵、ホッチキス、セロテープなど。
      2010年にはあらゆるものに、コンピュータが埋め込まれている。

    4st Step:Smart Space
     

     スマートスペースとは、空間中のあらゆる場所やものにセンサや小型のコンピュータが多数埋め込まれており、それらが互いに通信しあうことにより空間内の人々の活動をさまざまな形で「賢く」サポートしてくれるような環境のことである。イメージとしては、最新のトイレを思い浮かべれば良い。例えば、便器の前から離れると水が流れたり、流しで手を差し出すと水が出てきたりと、センサがあってそれに働きかけると行動の一部をサポートしてくれるような空間などがこれにあたる。



     スマートスペースはユビキタスコンピューティングの一種であり、スマートスペースは、

    • 空間性:「空間」としての機能をより強く意識している。
    • 目的:その空間にいる人を「賢く」サポートする。

    を特徴としており、ユビキタスとウェアラブルの統合空間である。アプローチとしては、

    • 家庭のトイレや風呂、脱衣場・試着室等、やることが決まった場所を狙う。
    • 電車や飛行機の中、カラオケ等、身動きがとりにくい場所を狙う。
    • スキー場、パチンコ、教育・訓練、幼児の早期教育、英会話、ドライバーライセンス等、手足の自由が効きにくい場所を狙う。

    などが考えられる。2015年にはいたるところがスマートスペースになっている。


    5st Entertainment Computing
       ウェアラブルとユビキタスを統合したスマートスペースでユーザはいったい何をするのか?考えて欲しい。


     エンターテイメントというのは、非常に重要なファクターである。例えば、携帯電話でのエンターテイメントコンピューティングでは、ユーザはいつでもどこへでも携帯電話を持っていくので、ゲーム、占い、メロディ、イラスト等、日ごろの何気ないことに利用できる。しかし、現在のコンテンツはまだまだ貧弱であり、エンターテインメント性を上げるには音と映像(3D)が重要であると考えている。音と映像の質が上がることによって、ジョギングのリズムにあわせて音楽が鳴るとか、実際に河に行って、その河でしか釣れないバーチャルな魚を釣るなど、生活のいたるところにエンターテイメント性を持たせることが可能である。

    Industrial Integration
     

     従来はあらゆるものがシーズ分類であり、いわゆる「縦割り」の構造を有している。

    • 業界
      電気、通信、コンピュータ、建設、食品、繊維、化学、窯業、鉄鋼、機械、金属、商業、金融、不動産、運輸、電力・ガス、サービス、農林
    • 行政
      内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省
    • 大学(一例)
      文学部、人間科学部、法学部、経済学部、理学部、医学部、歯学部、薬学部、工学部、基礎工学部
    • 会社(一例)
      経営企画部、経理部、人事部、総務部、法務部、営業部、資材調達部、技術本部部、電化事業部、半導体事業部、AV事業部、FA事業部、コンピュータ事業部、照明事業部、空調事業部、通信事業部

     "新しい産業を育成するためには、産業、行政等あらゆるものの横切りが必要(多摩大 田坂)である。"シニア産業、環境産業、教育産業など21世紀型新産業を育てるためには産業の水平統合(ニーズ型)が必要になる。ユーザの立場から見たニーズ指向型・提案型ビジネスであり、1社では新規産業ができない。IT技術で可能になる「異業種連合」である。例えば、目に見えたニーズ

  • 朝起きた。しんどい。
  • 体調の検査、診察(医療)、朝食(食品)、胃薬(薬品)、服装(服飾)、BGM(音楽)、空調(電機)、部屋のスイッチ(内装)、天気予報(気象)
  • 出張の予定が入った。
  • ホテル、列車、レンタカー、保険、服装、鞄、本、コンビニ、レストラン、ホテルとコンビニ、ホテルとレストランの連携など
    があるとして、これをスマートスペースにより、1)実生活の中で、2)リアルタイムに、3)自動的な「ニーズ抽出・サービス提供」、解決を実現するかといった場合異業種の統合サービスが必要になる。"現在、異業種のサービス統合が実現しているのは結婚(というニーズ)ぐらいであろう。(多摩大 田坂)" 金額が大きいから従来でもビジネスとして成り立っており、ITにより超低コストで異業種統合ができた事例である。

    現在の技術でも、「気の利いたお手伝いさん(秘書さん)なみにユーザをサポートする。」ことは可能である。そんなに「賢く」なくても良く、単に過去のパターンなどから統計的な予測をするくらいでも、間違いがあっても構わない範囲で運用できることもたくさんある。個別ビジネスは十分立ち上がる。標準化は後から行えば良い。例えば、コンビニはあらゆる業種にまたがってユーザの生活をサポートする実生活におけるポータルサイトになるかもしれない。最終的には、今「豊な生活」のための空間をいかに作るかということが重要である。今後の見通しとしては、以下のように考えている。



     私はこれらの流れを以下のように予言する。

    • ウェアラブルは、コンピュータよりむしろ小型情報機器(MP3P、デジカメ、DVC、ケータイ)のビューアとして1年以内にブレイクする。
    • 時計つきサングラス、点滅系アクセサリーのような低機能な装着型電子デバイスも浸透する。
    • 近いうちに渋谷・原宿の若者の50%がHMDを装着するようになる。
    • 5年後ユビキタス情報配信が一般的になり、ほとんどの人はHMDをはずせなくなる。
    • 10年後にはほとんどの子供・赤ん坊が早期教育のためHMDを装着するようになる。
      これは、予言というより、スローガンに近いかも知れない。ここにいる皆様方も傍観者でなく、一緒に市場を創出していって欲しい。


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